深川神社

お知らせ

愛知県陶磁器工業協同組合100周年を記念して

2026年09月29日

【瀬戸の土と炎が紡ぐ百年の記憶】

愛知県陶磁器工業協同組合 理事長 矢野 仁

深川神社の境内に立つと、千年の歴史を刻む杜の静寂の中に、瀬戸の職人たちが絶やすことなく燃やし続けてきた窯の焔の熱量を感じるようです。私たちの組合が歩んできた道のりは、まさにその焔を次世代へと繋ぐための、祈りと挑戦の軌跡でした。

[二人の「神様」と「せともの」の誇り]

瀬戸の地には、今の私たちが誇りを持って「せともの」という言葉を使える礎を築いた、二人の偉大な「神様」がいらっしゃいます。

一人は、今から約八百年前、深川神社の神託を受けて祖母(そぼ)懐(かい)で良質な粘土を見つけ出した陶祖・藤四郎(とうしろう)(加藤四郎左衛門景正)翁です。藤四郎翁が自ら作り奉納したと伝わる重要文化財・狛犬は、今も変わらず瀬戸の街を見守っています。もう一人は、江戸時代に九州での命懸けの修行を経て、瀬戸に磁器の製法を伝えた磁祖・加藤(かとう)民(たみ)吉(きち)翁です。

不便な山あいの地でありながら、陶器と磁器の両方を生産できる類まれな技が、「せともの」を陶磁器の代名詞へと押し上げていったのです。

 

[組合の誕生と、戦火に灯した職人の意地]

明治、大正と時代が進み、世界中で瀬戸の名声が高まる一方で、業界は不況や市場の混乱という荒波に直面しました。こうした困難を共に乗り越えるべく、1926年(大正15年)10月21日、現在の組合の出発点となる「瀬戸陶磁器工業組合」が結成されました。

しかし、歩みだして間もなく、戦争の暗い影が街を覆います。金属が枯渇する中で職人たちが意地を見せたのが、「陶貨(陶製の硬貨)」の製造でした。水分を含んだ土が焼成によって変形する難しさを、昼夜を問わぬ研究で克服し、終戦のわずか一か月前に完成させたその技術には、瀬戸の職人の誇りが凝縮されていました。

[昭和天皇の行幸と復興への足跡]

終戦翌年の1946年(昭和21年)、昭和天皇が戦後の産業復興と民情視察のため、当組合へ行幸(ぎょうこう)されました。当時の長谷川正博理事長は、陛下へ業界の現状を奏上いたしました。この歴史的な出来事は、傷ついた産地の人々の心を励まし、再び土に向き合う勇気を与えてくれました。

[大地を守り、資源を次代へ繋ぐ]

戦後の復興期、瀬戸の街は再び活気を取り戻し、瀬戸の陶磁器は世界市場を席捲しました。かつては馬の背で運んでいた荷も、明治に誕生した「せとでん」が、名古屋港、そして世界へと繋ぐ大動脈となりました。

高度成長の波に乗る中で、組合は「資源」確保のため、鉱山の開発を進めました。一方、深刻化した公害問題にも正面から向き合いました。かつて白く濁っていた瀬戸川の流れを再び清らかなものにするため、組合は1972年に公害対策委員会を発足させ、自然との共生を模索し始めました。また、二度のオイルショックという苦境に際しても、原料の共同購入や新規鉱山の開発を進め、瀬戸の火を絶やさぬよう努めてきました。

[万博の熱狂と「自然の叡智」]

2005年、瀬戸の街は愛知万博という大きな転機を迎えました。「自然の叡智」をテーマに掲げたこの祭典で、組合は「瀬戸焼」の精神を世界に発信しました。

不要になった焼き物を再び土に還すリサイクル活動「Re瀬ッ戸(リセット)」は、環境負荷を減らす新しいモノづくりの形として大きな注目を集めました。また、多くの人々の思いが描かれた巨大なモニュメント「天水皿n(てんすいざらえぬじょう)」は、瀬戸の歴史と未来を繋ぐ象徴となりました。

[百年の軌跡、そして次なる百年への焔]

そして今、私たちは大きな節目を迎えています。1926年の創立から数えて、愛知県陶磁器工業協同組合は100周年という輝かしい節目を刻むことができました。この100年の歩みは、先人たちが守り抜いてきた伝統と、時代に合わせて変化し続ける革新の連続でした。

近年、私たちが力を注いでいる事業の一つが「海外バイヤー招聘プログラム」です。世界各地からバイヤーを瀬戸の地に招き、実際に窯元を訪ねていただくことで、土と炎に向き合う生産者の熱い思いを肌で感じていただいています。この取り組みを通じて、世界市場への新たな販路を切り拓き、伝統の中に新しい息吹を吹き込む挑戦を続けています。また、瀬戸市出身の藤井聡太八冠(当時)という新しい星の誕生も、この街に大きな喜びと勇気を与えてくれました。

 

深川神社の境内で、古の陶工たちが土をこねる姿に思いを馳せるとき、私たちが紡いできたこの100年の歴史は、次なる100年へと繋がる大切な道筋であると確信いたします。これからも陶祖・磁祖への感謝を忘れず、瀬戸の土を愛し、窯の焔を絶やすことなく、新しい歴史を刻み続けてまいりたいものです。

 

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