深川神社

お知らせ

鬼瓦に寄せて

2024年10月03日

ようやく胸のつかえがとれました。

写真の鬼瓦は、平成の修復事業(平成12年~14年)に幣殿の屋根から下ろしたものです。本来は高い、高い大屋根から四方を睨んで見守り続ける鬼瓦は、十年以上もの間地に降りて物陰にひっそりとした場所に追いやられておりました。その姿を見るにつけ、申し訳なさとよき手立てがない情けなさ、何とかしなければいけない、という焦燥感で胸を痛めておりました。

昭和四年に改修工事を行っているので、鬼瓦も当時の瓦職人加藤栄氏が焼かれたものだそうです。瀬戸で造られた瓦、しかも、織部釉で造詣も素晴らしいものですから貴重な逸品です。その鬼瓦を日の当たる場所に戻し、よい形で皆さんに見ていただきたいという思いを燻らせて今日まで来ました。

そして、ようやくその希望が叶ったのです。それも、こんなにも素晴らしい形で展示することができました。鬼がきちんと納まるようにと、瓦の輪郭に合わせちょうど富士山のような形に削った御影石に載せらせたとき、胸が高鳴りました。そして「ああ、やっとこれで落ち着いた」と安堵しました。

作業は、12月15日から17日に行われましたが、中日の16日は身を切るような非常に冷たい雨が一日中降りしきる最悪の状況でした。きっと指先の感覚などないほどだったでしょうに、水のたまった現場で黙々と作業を続ける職人の姿に本当に頭が下がりました。

今年を振り返ると、まずは、4月、一世一代の大事業、撤去された一の鳥居の再建、8月の傾いた灯篭の移転、そして、今回の降ろされた鬼瓦の据え付け、といずれも神社の歴史に刻むべき事柄が続き、非常に動きのある年だったと言えます。これらを通じて学ばせていただいたことは、神社を預かるものがなすべきは、その時代、その時代に生きた人々の神様への気持ちを生かすべく「もの生かす」ということです。

人は生きて死んで、また生まれて死んでいきます。職人が生み出すものは、人の一生よりうんと命の長いものが多いです。作り手の思いが込められるから魂が宿るのでしょう。宿った命をまた次に渡していくことが、限りある命の人間の役目だと強く認識しました。

一年、一年はつながっていますが、一年、一年が新しい。
新たな年がよき年となるよう、お祈りいたしております。

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