麗しき御本殿によせて
2024年10月03日
文政6年(1823)諏訪の名工立川和四郎富昌の手により本殿が造営されてより今年は200年の節目の年。毎朝、本殿に榊を奉るときに見上げる彫刻は、何度見てもその端正な美しさに見飽きることはない。御神前は四つん這いになって拭き掃除をする。そのときの鉄則は「不意に頭をあげるな!」である。不用意に立ち上がろうものなら誤って彫刻にぶつかり破損することになる。長い年月や雨風、虫などの自然のモノにより傷ついたり、損なわれたりするのは止むを得ないが、人為的に壊れるようなことは神様に奉仕する身として絶対にあってはならないことである。
平成の大改修(平成12年~14年)で本殿の彫刻も大々的に修繕しており、その10年後にも手入れをしているので現在も非常に良い状態で維持できている。現代のように便利な道具や電動の機械、大型の重機もない時代に5年の歳月をかけて築き上げる工程は、材木を伐り出す、運ぶことから始まり、いかに時間と手間が必要だったであろう。櫓一つ組むにも大仕事であったろうが、実際の苦労は今では想像しがたい。
平成25年に宮彫写真家の若林氏から本殿の撮影をしたいと申し出があった。本殿を撮る、即ち「神様の御座所に対してレンズを向けシャッターを切る」ということに正直なところ一瞬ためらいはあった。しかしながら、抗うことのできない時の流れで今の良い状態をこれから先いつまで維持できるか分からない、また、素晴らしい本殿があること(後世にはあったこと)を残せる一つの良策にもなるのではないかと考えお受けした。
そして、本年を迎える。
一般の人々にはなかなかご覧いただくことができない本殿である。この好機にその超絶技巧を見ていただくことができる写真展を開催することにした。その精緻な美しさを鑑賞していただきたいのはもちろんだが、もう一つ感じていただきたいのは、その当時の人々の敬神の念の篤さ、これだけの本殿をおらが村に築こうという熱い思いと財を投入できる瀬戸の街の勢いである。
200年前の人は誰も生きていないが、立川の手により建てられた本殿は200年の時を生き抜いて現存する。古の人々の想いを組んだ本殿、御神徳を高めるべく装飾された宮彫、若林氏がそれを撮る、記念写真展を開催する、それぞれの点と点が結びついて時空を超えて線になる。神様の思し召しであろうご神縁。これからも大神様は瀬戸の街を、瀬戸の人々を行く末永く見守り続けて下さることであろう。