十兵衛くん
2025年05月09日
神社の前にある宮前公園には、子供のころはお猿さんがいた。瀬戸公園(現・陶祖公園)にもいた。今もその名残の「猿舎」の案内表示が残っている。でも、いつの頃か定かに覚えていないが、お猿さんはいなくなってしまった。
ここ10年ちょっと前から神社を訪れるお猿さんがいた。十兵衛君である。
彼はれっきとした演芸者である。相棒さんと一緒に現れると居合わせた参拝者の注目の的である。境内をゆったり、ゆったり歩いたり、ふと佇んだり、ときに頭をかいたりしていると、周囲の皆さんのスマホが十兵衛君をとらえる。たいへんおとなしく一緒に写真を撮っている方もいる。相棒さんによると他の人が撫でても全く平気だそうだ。けっこうお猿さんは牙をむいて威嚇しているイメージがあるが、彼はほとんど「人」なのかれしれない。
相棒さんが拝殿前でお参りするとき、彼はピタッと止立。さすがに二礼二拍手一礼はしないが、何となく神妙にしている。
神社の近くの商店街で月に一度のマルシェがあるときに立ち寄ってくれていた。
彼はマルシェに買い物に行く、、、わけではなく、得意の演技を披露するのである。
4月下旬に相棒さんが訪れた。なんでも十兵衛君は、4月12日に瀬戸しなの道の駅の催しに出演するはずだったが、体調を崩して休養中とのこと。一時はかなりぐったりして食事もとれなかったが、少し回復して好きなバナナをほおばることのできるようになったそうだ。このまま快方に向かうことを祈るのみである。
そして、マルシェのある5月第一日曜日。現れたのは、相棒さん一人だった。
相棒さんの献身的な看護に一度は元気を取り戻したかのようにみえたが、残念ながら4月30日にこの世を去ったとのことだった。サル年齢34歳、人間でいうなら102歳という長寿を全うした十兵衛君。
5月2日に相棒さんのご自宅で葬儀。この日は朝から雨だった。しかし、火葬車で荼毘にふされるとき小雨になり、しかも虹が出たそうだ。それも二重の虹。煙となって立ち昇る雲になったのか、空には十兵衛君の顔が描かれたような層積雲が浮かんだそうだ。
月初めに姿を見るのが楽しみだったが、さびしい限りである。
きっと今頃はお空で自由自在に得意の三輪車を乗り回していることだろう。口惜しいかな、もう三輪車に乗る十兵衛君を見ることはないだろうが、、、、