企画展「瓦万華鏡 〜社会、地域、心をつなぐ〜」開催
愛知県陶磁美術館 学芸員 大西 遼
愛知県陶磁美術館(瀬戸市南山口町)では、4月15日(土)から企画展「瓦万華鏡 〜社会、地域、心をつなぐ〜」を開催しています。本展のテーマである瓦は、屋根を守り・飾るための建材として、約1400年間使われてきたやきものです。寺院建築、城郭建築、城下町、宿場町、一般家屋等、歴史を通じて様々な建築に瓦は用いられてきました。
瓦葺建築は社会や地域と深く関わり合い、今も昔もランドマークとして人々の心の拠り所ともなっています。人々の暮らしに呼応しながら様々に変化してきたことから、「時代を映し出す鏡」としての魅力も備えています。今回の展示では地元愛知に軸を置き、歴史的な実物資料や写真資料などを交えながら瓦の魅力に迫ります。
愛知県の瓦というと、高浜市などを中心に生産され現在国内第1位の生産量を誇る三州瓦が有名ですが、今回の展覧会では瀬戸の瓦も多く展示しています。瀬戸では江戸時代から昭和後期まで、全国的にも珍しい釉をかけた瓦(施釉瓦)が作られていました。深川神社の拝殿も瀬戸の緑釉瓦が葺かれ、三州瓦等のいぶし瓦とは異なる独特の趣を持っています。
瀬戸の施釉瓦の歴史を紐解いていくと、古くは江戸時代前期(17世紀)からその足跡をたどることができます。初代尾張藩主徳川義直の廟所である定光寺源敬公廟の塀には、現在でも緑釉瓦が整然と埋め込まれ、特徴的な外観を作り出しています。同様に尾張徳川家と関係の深い名古屋城二之丸庭園や、徳川幕府歴代将軍の御霊屋が鎮座していた名古屋城三の丸でも瀬戸産の施釉瓦が集中して出土しています。こうした使われ方から、江戸時代の瀬戸の施釉瓦は特別な瓦であったことがわかります。瀬戸市内では、これらの施釉瓦を生産した窯跡も見つかっています。
またこれとは別に、江戸時代後期から昭和初期まで生産され、独特の錆釉を施した赤津瓦も知られています。現在でも、赤津地区では雲興寺(瀬戸市)をはじめ赤津瓦の葺かれた屋根を見ることができます。
このように全国的にも特殊な瀬戸の施釉瓦は、近現代にも品野・水野地区の一部で作られていました。瀬戸の陶芸家・加藤清之氏によると、品野地区で自身も父・榮氏と瓦作りを行い、1960年代まで瓦作りを行っていたそうです。
深川神社の拝殿に葺かれた緑釉瓦も加藤家で作られた瓦です。
現在、瀬戸で瓦作りは行われていません。しかし、深川神社の拝殿や定光寺源敬公廟、雲興寺などで、現役で屋根を飾り続ける瀬戸の施釉瓦を見ることができます。三州瓦とともに、愛知の瓦を特徴づける瀬戸の施釉瓦に、ぜひ目を向けていただければと思います。
瓦万華鏡展では、6月25日(日)まで瀬戸の施釉瓦はじめ愛知の瓦の魅力を展示紹介しています。
ぜひ御来館いただければと思います。
詳しくは、公式HPを御参照ください。