年末の困りごと
今年も残すところ一月半を切ってしまった。一日は同じ24時間なのに、まるで砂時計の砂がさらさらと落ちていくように時間が早く過ぎていくと感じる。最近はネット動画などを倍速で見ていくのが流行りらしいが、正月が来るという切迫感から実際の生活がそんな感じですごい勢いで過ぎていく。あれはやったか、これはやったか、頭の中が焦り始めるのである。
11月の七五三が落ち着くと「わらべや」と呼んでいる部屋の用意をする。「わらべや」はその名のとおり「藁」の部屋、稲わらで縄をなう場所である。もしかしたらこの文章を読んでいらっしゃる方の中には、「綯う(なう)」という言葉が分からない世代もいらっしゃるかもしれない。藁で縄を作ることを「綯う」と言い、二束の藁を捻りながら縄を作っていくが、捻るときに左が上になるように束を重ね合わせ綯うことを「左ない」と言い、神社のしめ縄は左ないである。
しめ縄はその場所が神聖な処であることを示す境界のようなものである。境内にある大、小すべてのお社、社務所、手水舎にしめ縄がついている。長いものは4メートルぐらいもあり、総数は20本ぐらいである。先代宮司の父は、晩年こそ多少職員に手伝ってもらっていたが、全てを一人で作り上げていた。藁だらけになり、手はガサガサになり、座り仕事で腰も痛くなりながら、12月初めから中旬にかけて一気に仕上げていた。完成すると誇らしげであり、今年もやり遂げることができたという安堵した様子でもあった。
父は左利きであった。祖父も左利きで器用な人であった。私も左利きではあるが、残念ながら上手く綯うことができない。皆に助けてもらっている。自分がやってみて初めて神社のしめ縄全部を最初から最後まで一人でやりきることの大変さを痛感する。
そのしめ縄が今は存亡の危機にある。藁の仕入れ先が無くなっているのだ。昔は瀬戸の農家から仕入れていたが入手できなくなって十数年、縁あって新潟の米店を通じて昨年まで仕入れていた。しかし、そちらも高齢でやめていく方ばかりで今後の調達は困難となった。米藁はいくらでもあるが、しめ縄用はもち米の藁を青いうちに刈り、はざかけをして乾燥させなければならない。手間と作業の場所が必要だそうだ。愛知県でしめ縄を専門に作っている業者の話では、しめ縄を作る農家が昔は30軒あったが、今では4軒になったとのことである。激減である。
最近はビニール製のしめ縄を掛けている神社もあるが、それも致し方のないことなのだろう。最後の手段は米藁を使用するという手があるそうだが、問題は収穫後の藁なので青くない、すなわち、麦わら帽子と同じ色となる。それではどうも神聖さと新鮮さがない。どなたかしめ縄用の藁をお作りの方をご存じでしたら、是非ともお知らせいただきたい。