54年ぶりの大鏡餅奉納に神職として携れた巡り合せをありがたいと思った。
一つの行事に対し今回ほどたくさんの神事を斎行させてもらったことはない。昨年中には、御田植祭、抜き穂祭、大鏡餅奉納直近には、餅搗き会場地鎮祭、橙造り清祓い、米洗い清祓い、忌穢祓い、奉納パレード用車輛清祓い、大鏡餅奉納出発式が執り行われた。神事は朝行われ、5時開始の場合もある。早朝の市場は冷たいというより痛い。手がかじかんで祝詞が上手く開けないほどである。にもかかわらず、各神事には大勢の関係者が集まっているのは、事業達成にかける意気込みの表れだろう。
この大事業に関与する人は、様々だ。母体である瀬戸市奉賛会会員、場所を提供された尾張東地方卸売市場、道先案内人である尾張大國霊神社神職、鉄鉾会(神男経験者の会)その他もろもろの人たち。それぞれの心の内を祝詞にしたため神様にお伝えし、諸事万端滞りなくいくようお守りいただきたいと祈念するのが神職の使命である。奉納パレード出発式前夜は、この一連の神事の最後だと思うと、何とかここまできたか、とさすがに胸に迫る思いがあった。どうやらその祈りが届いたのか、大きな障害も事故もなく、汗ばむくらいの陽気で好天に恵まれて無事に大鏡餅を国府宮に納めることができた。後にも先にも一度きりとなる貴重な務めであった。
2月11日の地鎮祭から27日の大鏡餅奉納までが、あまりにも濃くて凝縮された時間であったためか、奉納した大鏡餅を切り分けられたお下がりが宅配便で届いたとき、もう続きがないのか、とうら淋しい気がしたのは、きっと私だけではないだろうと思った。